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自分でやった方がいい病とは
自分がやった方がいい病とは、「自分でやった方が早いので、人に任せることができない」という病気です。特に、自分で何でもできるような、能力の高い上司などが陥りやすい病気です。しかし、全ての仕事を自分でやろうとすると、いくら時間があっても足りませんし、新しい仕事をスタートアップすることもできません。そのため、仕事を人に任せて、仕組み化できるよう、常に考える必要があります。
自分でやった方がいい病の上司は、まず、人に任せた方が良い仕事には、どのような仕事があるのか、知っておく必要があります。人に任せた方がよい仕事には、次の2種類の仕事があります。
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「1.自分がやるには困難な仕事」というのは、自分がやろうとすると、時間のかかる仕事です。例えば、売上を統計的に分析したくても、あなたにEXCELの知識があまりない場合は、一から勉強して作るよりも、EXCELが得意な人に任せた方が速いです。また、取引先から草野球への参加を頼まれても、あなたに野球の経験がなければ、一からキャッチボールの練習をするよりも、野球経験のある人に任せた方が良いです。
自分がやるには困難な仕事は、人に任せた方が早いというのは、普通に考えれば誰でも分かることです。しかし、能力の高い上司などは、チャレンジ精神が豊富だったり、知的好奇心にかられて興味を持ったりして、困難な課題に、逆に果敢に挑んだりしがちです。そして、何事も人に任せることができず、最終的に、何事も卒なくこなせるものの、パッとしない器用貧乏になって人生を終えてしまいます。特に、スキルや資格、語学などの習得に熱心な、向上心の高い人に限って、そのようなマゾっぽい状況に自ら足を踏み入れ、時間と金銭を無駄に費やしがちやすいため、注意しましょう。
「2.自分でなくてもできる仕事」というのは、頭をあまり使わない「作業系の仕事」です。作業系の仕事ならば、仕組み化してマニュアルを作っておけば、部下や同僚に任せることができます。例えば、会議の議事録は、あなたがわざわざ作らなくても、テンプレートを作っておけば誰でも作れます。また、書類作成や帳簿作成も、人に任せることが可能です。
しかし、作業系の仕事は、大抵の場合、人に任せるよりも、自分がやった方が早い場合です。なぜなら、自分が思った通りに部下は動いてくれませんし、作業や手順に精通している自分でやった方が早いからです。また、人を自分の代わりに動かすためには、マニュアルを作る必要もあります。また、任せた後しばらくは訓練期間が必要なため、手順通りしているかチェックするための労力も必要になってきます。
最終的に、ようやくその人が作業に慣れて任せられるようになっても、作業の全体像を把握しているあなたが作業した方が、効率的なのには変化ありません。部下に作業系の仕事を任せていたとしても、トラブルが起こった場合は、部下では臨機応変に対応できないからです。
そのため、一般的には、人に任せると、始めのうちは、あなたが作業する時間の約3倍の時間がかかり、最終的に部下が作業に慣れても、あなたが作業する時間の約1.5倍、時間がかかります。
以上のように、自分ができる仕事を人に任せることのデメリットも確かに大きいですが、それでもやはり、仕事をなるべく人に任せなければ、自分で延々とルーチンワークをするだけで、人生が終わってしまいます。それならば、できる限り人に作業を任せて、新しいプロジェクトを考えたり、新しいサービスのアイデアを出していく方が、最終的に多くの成果を出せますし、会社や社会でも認められられます。
もしあなたが会社員なら、「作業系の仕事」は、結局、あなたがもし会社を辞めたら、他の誰かがこなす仕事です。それならば、いっそのこと割り切って、さっさと任せてしまい、なるべく時間と労力を捻出するようにしましょう。時間や労力を捻出することの大切さは、Apple創設者のスティーブ・ジョブズの次の言葉にも表されています。
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これは、Google創設者のラリー・ペイジが、スティーブ・ジョブズに経営のアドバイスを求めたときに、スティーブ・ジョブズが言った言葉です。会社で上に立つ者は、常に、やらないことを決めて、人に任せ、創造的な仕事を作るための余裕をもたなければいけないわけです。特に、会社が人を雇っているのではなく、自分が経営者で人を雇っていると、身銭を切って働いてもらっている従業員の作業の遅さに、ヤキモキしやすいものです。しかし、その不自由さを乗り越えて、自分にしかできないことに専念することが、経営で成功する秘訣といえるかもしれません。
自分でやった方がいい病を、克服する方法
自分でやった方がいい病を克服するためには、やはり、人に頼めるようにならなければいけません。しかし人によっては、今まで何度も部下に仕事を頼んできては失敗を繰り返し、任せることに嫌気がさしてしまった方も多いかもしれません。そんな過去の苦い思い出により「自分でやった方がいい病」になってしまった方は、人の任せるとき、次の点に気をつけてみましょう。
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「1.定期的に行う作業を任せる」というのは、毎日行う作業や、週1回、月1回といったペースで、定期的に行う作業を頼むということです。1回のみで終わるような仕事だと、教える時間が無駄になってしまうこともよくあります。それならば、まずは、定期的に行っているルーチン化された作業を教えて、任せるようにしてみましょう。トイレ掃除や、お茶汲みなど、ルーチン化された細々とした作業も、たくさんあるはずです。
「2.作業を細かく分けて任せる」というのは、複雑な仕事を一気に頼むのではなく、簡単にできるように、細かい作業に分けて頼むことです。プロジェクトマネジメントの用語では、プロジェクトを完遂させるための細かな作業を「タスク」と呼びますが、「タスク」をなるべく小さくして頼むようにします。タスクの大きさは、どんなに大きいタスクでも、その日のうちに終わる程度の大きさにまで小さくしましょう。「例えば、資料を作る」という作業では3日かかってしまうかもしれませんが、「資料を10行目まで作って、とりあえず持ってきて」と、小さいタスクに分割すれば、1日で終えることができます。
「3.1回で1つずつ任せる」とは、1回で複数のことを任せてはいけないということです。例えば、「資料を作って、コピーして、みんなのテーブルの上に配って置いておいて」と一気に頼んでしまうと、聞き漏れや勘違いが起きやすくなります。また、資料の作り方が間違っていたら、テーブルの上に配って置いた資料を全部回収して、はじめからやり直さなければいけません。あなたが思っている以上に、人というのは思ったように動いてくれません。そのため、任せる仕事のレベルは、こちらで調整する必要があります。
「4.名詞と数字で任せる」とは、任せるときに、「形容詞」と「動詞」は使わず、「名詞」と「数字」で任せるということです。例えば、次のような感じです。
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形容詞や動詞は、人によって感じ方が異なり、意味の伝達が曖昧となるため、伝達ミスが生じやすくなります。そのため、せっかく任せても、こちらが思ったものと違うものが出来上がることが、多々あります。人に任せるときは、ハッキリとビビッドに伝わるよう、名詞と数字を使いましょう。
「5.質問させる」とは、頼んだ後、「何か質問ある?」と、確認することです。こちらはきちんとやって欲しいことを伝えていても、相手には不十分にしか伝わっていないこともあります。また、勘違いして覚えていることもあります。そのようなすれ違いを放っておいたまま仕事を任せたら、結局、完成した後に、全てやり直してもらわなければいけなくなります。そのため、作業に取り掛かってからミスが生じる前に、事前に相手の理解度を確認しておくことも大切です。
「6.フォローする」とは、作業に取り掛かっているときに、時折、作業の進展状況を確認することです。作業を間違えたまま進めていると、後で修正してもらうのにたくさんの時間がかかってしまいます。また、実際に作業に取り組んでいると、わからないこともいろいろ出てきます。そのため、「進んでる?」「分からないことない?」と、様子をうかがうようにしましょう。そして、あなたの時間に余裕があれば、少しフォローしてあげたり、励ましてあげたりして、モチベーションを高めてあげるのもいいでしょう。
人に任せてもうまく動いてくれないと、イライラしてしまうため、当たり散らしたくなります。しかし、現在は、そのような行為はパワーハラスメント(パワハラ)と受け取られ、大問題になってしまうため、一昔前のスティーブ・ジョブズや孫正義さんのように、作業のできない人を激しく罵倒することは許さません。そのため、自分でやった方がいい病を克服するためには、上手に人に任せるためのスキルも身につける必要があります。マネジメントの生みの親であるピーター・ドラッカーは、人に任せることについて、次のように述べています。
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そのため、人に任せるというのは、自分の成長のためには欠かせないステップです。一旦、人に任せられるスキルを身につければ、今後のあなたの仕事や生活にもたくさんのゆとりが生まれて、有意義に人生を使えるようになるので、きっちりと人に任せるスキルを身につけてしまいましょう。