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仕事でミスをなくす方法
仕事でミスをなくす方法といっても、完璧になくすのは、実は難しいです。というのも、ヒューマンエラーに関する研究では、次のようになっているためです。
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そのため、どうやったとしても見逃してしまうミスが、0.3×0.3=0.09%残ってしまい、100万回で9回ミスが生じるのは仕方のないことだと考えられています。また、大量生産による品質管理のミスを減らすのも、10PPM(100万分の10)が限界だとされています。
しかし逆に言うと、ミスの確率が0.09%より大きい場合は、改善できる余地があり、もっと仕事でのミスを減らす方法がありえると言えます。
仕事でミスをなくす方法で、必要なこと
仕事でミスをなくす方法を考えるときは、少なくとも、なるべくミスをおかさないようにする必要があります。そのためには、ミスしてはいけない仕事の人が、どのように仕事をしているのかを見ていくことが有用です。
ミスを起こさないためには、まず、基本的な技術の習得と、技術レベルの維持が必要不可欠です。その具体的な方法として、JAL日本航空の機長の経験を15年以上もっている靍谷忠久さんは、パイロットが個人でできる方法を、次の3つに集約しています。
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なお、ここで言う「確認」は、技術レベルがキープされているかという意味の確認であり、安全確認など事前確認の意味ではありません。
航空業界でも、昔は、エラーはゼロにできると考えられていましたが、現在では、どれだけ努力しても、事故率はゼロにはならないという考え方に変わってきています。また、人間の脳の構造的にも、ニューマンエラーを完全に回避できないことも分かっています。そのため現在では、どうやったらエラーを管理・コントロールでき、どうやったらエラーが起きたとしても大事故にならないか、という考えに変わってきています。
仕事でミスをなくす方法で、一般的な方法
実際に仕事をしながら、仕事でミスをなくす方法としては、次の2つの方法が一般的です。
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「1.システムの変更」は、ミスが起きたとき、ミスを起こした人の問題でなく、システムの問題だと考え、システムの変更を行います。確かに、ミスが起きた時、ミスした人を叱ったり、教育したり、解雇したりする方が簡単です。しかし、「システムに問題がある」と考え、ミスの起こらないシステムづくりにエネルギーを注ぐ方が、誰でもミスの起こりにくいシステムを作ることができるので、生産的とも言えます。
システムの変更に含まれるものとしては、ミスを事前チェックするシステムを追加導入したり、新たに機械を導入したりすることも含まれます。例えば、EXCELでデータを作ってもらうときも、入力する必要のないセルにはロックをかけて入力不可にしておけば、誤入力を防ぐことができます。また、機械の例としては、例えば、レジでバーコードを使って読み取るようにすれば、金額を手入力するよりミスが少なくなります。システムの変更は、主に次の3つのレベルで行うことができます。
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ミスの起きないシステムを作ることができれば、個人の能力に頼る必要もなくなるため、パートやアルバイトの人に任せることもでき、汎用性があります。そのため欧米で、ヒューマンエラーの改善策としては、システムの変更がメインです。
「2.事前確認」は、特に鉄道業界で昔から使われているもので、「指差喚呼(しさかんこ)」と呼ばれています。「指差喚呼」とは、電車の運転手や車掌さんが、指で指しながら「反応灯よーし!」「乗り降りよーし!」と言っている確認方法です。一般的には「指差し確認」と呼ばれたりしますが、次のように呼ばれたりもします。
指差喚呼:しさかんこ | 指差確認:しさかくにん |
確認喚呼:かくにんかんこ | 指差確認喚呼:しさかくにんかんこ |
指差呼称:しさこしょう、ゆびさしこしょう | 指差称呼:しさしょうこ、ゆびさししょうこ |
指差唱呼:しさしょうこ、ゆびさししょうこ | 指差し確認、指さし呼称 |
なお、「呼称(しさこしょう)」は、「こしょう」だと「故障」を連想して縁起が悪いため、文字を入れ替えて「称呼(しょうこ)」に変えたりしています。
日常生活での確認は、確認ミスがないように声だけ出す「声だし確認」で済ませることが多いと思います。一方、「指差喚呼」は、複数の段階を踏んでチェックしており、一般的には3段階である「見る」「指差す」「声に出す」の3ステップで知られています。しかし実際には、次の5つの感覚を使って多重確認しています。
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「指差呼称」は、5つの感覚を使うため、ヒューマンエラーを防ぐためには非常に効果的です。また「指差呼称」をすることにより、脳科学的には次の3つの効果があります。
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「a.注意の焦点づけ」というのは、対象への集中力を維持できる効果です。人間の集中力を維持できる時間は限られており、15分程度が限界と言われりと言われていますが、指差呼称をすることで、対象への集中力を復活・維持させます。
「b.覚醒」は、脳を覚醒させる効果です。刺激に変化がないと脳の意識レベルは低くなっていくため、車の運転でも2時間ごとに休憩を取る必要がありますが、指差呼称をして5つの感覚で多重確認を行うことで、脳を覚醒させて目覚めさせます。
「c.焦り防止」は、急いでいるときでも心を落ち着かせる効果です。焦燥していると、確認ミスが起こってヒューマンエラーが起きやすいですが、指差呼称をすれば、段階的に確認できるため、茶道や武道の作法のような意味合いがあり、心を落ち着かせる効果があります。工事現場などでは、「良し!」と短く大きな声で言うことが多いですが、電車の車掌さんなどが「よぉーし!」と伸ばしながらゆっくり言うのにも、焦り防止の意味があります。
指差し確認は日本で生まれたものです。明治時代に蒸気機関を運転していた堀八十吉さんの機関助手へ何度も確認している様子が、神戸鉄道管理局の目に止まり、1913年(大正2年)の「機関車乗務員教範」に「喚呼応答」として取り入れられました。
指差喚呼は、日本の鉄道会社独自の確認方法なため、海外から来た外国人からみると、非常に奇妙な風習に見えます。しかし指差喚呼は、世界で最も優れている日本の鉄道システムの正確さと信頼性を支えている、誇れる技術です。実際、指差喚呼はミスを大きく減らすことができ、例えば、ミスの起きる確率を2.38%から0.38%へ大きく減少させたという報告もあります。そのため日本では、指差喚呼はミス軽減の技術として一般的なため、現在では、鉄道業界だけでなく、航空業界や医療業界、工場などの製造業、さらには工事現場や林業にまで、幅広く使われています。
指差喚呼は脳筋的なアプローチとされて、日本以外では馬鹿らしく映るため、海外の工場で指差呼称を導入しようとしても、全く実行されません。似たような傾向は、最近の日本の若い社会人にもよく見られ、仕事のできない人に限って「何度も見直すのはめんどくさいから」と地味な確認作業を行わない傾向があります。確かに、確認作業をしないと、確認時間に使わない分、仕事は速いです。しかし、結局、ミスが多く訂正に時間がかかるため、最終的にはこまめに確認する人よりも完成が遅くなり、使い物になりません。ビジネスでは結果が全てなので、ミスばかりしている人の方が、かっこ悪くてダサいとも言えます。プライドが高いだけの役立たずにならないよう、ミスのない仕事をどうすればできるか、工夫しましょう。