見切り発車とは、仕事で迷惑なのか?

見切り発車とは、仕事で迷惑なのか?

見切り発車とは、仕事や会社の事業をするときに「細かいことを考えず、とりあえず開始する」という意味で使われます。本来は、「電車などで、満員や発車時刻などの理由により、お客さんを残したまま発車する」という意味ですが、ビジネスで使う場合は、準備が不十分でも、とりあえず実行する、という意味です。

「見切り発車」で仕事をすると、周りの人は振り回されてしまうため、会社の上司に見切り発車する人がいると、大変なことは確かです。

しかし、見切り発車はメリットも多いです。見切り発車をせず、机の上でああだこうだと考えているうちは、仕事は進まず、何も生み出しません。例えば、あなたが就活生だったとして就職活動をするとしても、どんな仕事が自分に向いているの考え続けているだけだと、それだけで、就職活動の時期は終わってしまいます。一方、見切り発車でも良いので、とりあえず「営業系にしよう」と決めてしまうと、とりあえずは、目先の就職活動に集中することができます。

見切り発車の重要性について、偉人の言葉を借りるなら、経営学者の権威「ドラッガー」や、フランスの英雄「ナポレオン」の、次のような名言にも示されています。

  • 最も重要なことから始めよ。(ドラッカー)
  • 戦術とは、一点に全ての力をふるうことである。(ナポレオン)

仕事や事業でも、見切り発車すれば、とりあえず、最も重要な仕事が定まります。そして、重要な仕事が定まれば、一つのことに向かって、全員が同じ方向に進むことができ、人的資源も有効活用できるわけです。

また、見切り発車をすることにより、iPhoneを開発したApple社の元社長「スティーブ・ジョブズ」の次の名言にも、自然と従うことができます。

  • 最も重要な決定とは、何をするかではなく、何をしないかを決めることだ。(ジョブス)

見切り発車で当面のやることが決まれば、当然、やらなくていいこともハッキリします。そのため、無駄な時間も減り、仕事はスピードアップするわけです。例えば、新規で農業に参入するのであれば養殖の知識は必要ないですし、文系で受験するのなら理系の勉強は必要ありません。しなくていいことが分かれば、あなたの仕事や会社の事業の達成スピードは、格段に早くなります。

仕事で見切り発車している事例

見切り発車で仕事をして、多くの事業を成し遂げてきた人物の一人が、ソフトバンクグループの社長でもある孫正義さんです。孫正義さんは、きちんと事業計画が煮詰まる前の速い段階で、見切り発車で大々的にマスコミに発表することが多い方です。

例えば、ソフトバンクとアメリカのナスダックの2社で、新興企業向け株式市場である「ナスダック・ジャパン市場」を作ったときも、見切り発車に近い状態で1999年6月15日に記者会見を行い、次のように、約11ヶ月という短期間で新しい株式市場を開きました。

  1. 当時:ソフトバンク内には、証券取引所や金融業に詳しい人が、まったくいない状態だったにも関わらず…
  2. 1999年6月15日:ソフトバンクと全米証券業協会の2社が提携して、ナスダック・ジャパンを創設に向けて動き出すことを発表。さらに同月中に、2社で折半して準備会社である「ナスダック・ジャパン・プランニング」を設立することを発表。
  3. 1999年10月12日:ベンチャー企業や企業家をバックアップする会員組織「ナスダック・ジャパン・クラブ」を作り、会員は3,669人、3,137社に。第1回ナスダック・ジャパン・クラブ総会を開催し、参加者は2,300人以上。
  4. 1999年12月24日:大阪証券取引所(大証)とナスダック・ジャパン・プランニングが提携を発表し、独立機関「日本ナスダック協会」の設立計画を発表。
  5. 2000年2月23日:第2回ナスダック・ジャパン・クラブ総会を開催し、参加者は前回より減って1,400人になるも、会員数は4,306人に。
  6. 2000年3月15日:日本ナスダック協会が発足、第一回会合を開催。
  7. 2000年5月8日:ナスダック・ジャパン市場を開設。
  8. 2000年6月19日:ナスダック・ジャパン市場にて売買開始。

以上のように、ナスダック・ジャパンは、11ヶ月という異例の速さで、開設にまでこぎつけました。

また、ナスダック・ジャパンと同じように、孫正義さんの見切り発車の事例がうかがえるのが、ロボットの「Pepper(ペッパー)」の販売についてです。Pepperの販売も、2014年6月6日に発表先行の見切り発射で注目を集めた後、発表より8ヶ月で業務用を販売開始、さらに発表より1年後には一般用の販売も開始され、次のような短期間で、販売の実現にこぎつけました。

  1. 当時:ソフトバンクは、一般向けにPepperを販売することは決めていたが、どのように展開していくかについては、定まっていない状態だったにも関わらず…
  2. 2014年6月5日:ソフトバンクは記者会見を行って「Pepper」を発表し、その様子を、インターネットでも生中継した。
  3. 2014年7月24日:ソフトバンクグループのロボット事業を行う「ソフトバンクロボティクス株式会社」を設立。
  4. 2014年9月20日:「Pepper Tech Festival 2014」で、Pepperの開発者イベントを行い、1,000人以上の技術者やエンタメ業界関係者が参加。その場で、Pepperの開発者向けのデベロッパー先行モデルの価格が発表され、本体価格198,000円(税別)に加え、3年間の保証費で月9,074円(税別)かかり、3年間で合計57万円程度となることを発表。
  5. 2015年2月27日:開発者向けの初回生産300台を販売し、1分で完売
  6. 2015年6月20日:一般向け1,000台を販売し、1分で完売
  7. その後:2015年7月31日、8月29日、9月26日、10月31日、11月28日、12月28日に、一般向けで合計6,000台を販売するも、毎回、1分で完売

以上のように、Pepperの販売の場合は、「ロボット」という新規分野でありながらも、生産設備や販売体制の確立を、驚異的なスピードで成し遂げていることが分かります。なお、「Pepper」の場合は、ソフトバンクも事前に準備を行っており、2013年3月27日に、ロボットの製造元であるフランスの「アルデバランロボティクス」社を買収し、Pepperの開発計画を立ていました。しかし、やはり、2014年6月5日の発表以降からの、Peppre販売までのスピードには、眼を見張るものがあります。なお、「アルデバランロボティクス」社は、2016年に「ソフトバンクロボティクスヨーロッパ」と社名を変更し、現在も新型Pepperの開発を続けています。

なお、孫正義さんの見切り発車には、「まずは日にちを決めて、公の場で発表してしまう」という「発表経営」と呼ばれる特徴があります。一度、公で発表してしまったら、動かざるを得ないですから、あとは、猛スピードで仕事を完遂するまで突っ走れるわけです。

この孫正義さんの見切り発車的な仕事術が見られるのは、大きな事業計画のときだけではありません。孫正義さんのtwitterアカウントでは、フォロワーからソフトバンクへ要望があったら、即座に「やりましょう」と見切り発車でつぶやき、会社の人を困らせてしまうこともしばしばありました。

最近は、孫正義さんのtwitterへのつぶきやきも減り、つぶやきが減った理由については、孫正義さんいわく「次の手を予想されてしまうので、心配になって、つぶやけなくなってしまった」とのことです。しかし、フォロワーとの以前の無茶振り的なやり取りは、ソフトバンクグループのホームページの『孫正義 @masason 「やりましょう」進捗状況』にまとめられています。

孫正義さんの驚異的なスピードでの事業拡大の秘訣は、見切り発車にあったといっても、過言ではありません。その他にも、見切り発車的な孫正義さんの事例には事欠かず、例えば、資金が少なく会社が無名であった時期にも関わらず、当時のパソコンソフト最大手の「ハドソン」に単身乗り込み、資金の目処がつかないにも関わらず、見切り発車的に取引の約束をしてしまったこともあります。そのときは、後で必死に銀行に頼み、なんとか融資を取り付けてもらっています。もし、あなたも孫正義さんのように、仕事を誰よりも早く成し遂げたいなら、みんなに宣言して、見切り発車で突っ走ってみるのも、いいかもしれません。

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