壁打ちとは、ビジネスでどんな意味があるのか?

壁打ちとは、ビジネスでどんな意味があるのか?

壁打ちとは、ビジネスにおいての意味は、「自分の考えを人に話し、そこから返ってくる反応を元に、さらに考えを深めていく」という手法です。ビジネスにおける壁打ちとは、次のようなやり方で行います。

  1. 壁打ちの相手に対して、自分の考えを言葉で投げる
  2. 壁打ちの相手に、壁のように、言葉を跳ね返してもらう
  3. ボールのように、壁打ちの相手に何度か言葉を打っているうちに、思いがけない方向からボールが返ってきたり、打った場所から遠く離れた地点にボールが跳ねていく
  4. その結果、今までとは違う角度から物事が見えてきたり、より広い範囲で考えたりできるようになる

以上のように、壁打ち相手へ向けて自分の考えや意見を話すことにより、自分の考えを深化させていくことができます。

壁打ちする相手は、「壁打ち相手」や「ディスカッションパートナー」と呼ばれたりもします。壁打ち相手からの跳ね返ってくる際のスピードや角度はあまり関係なく、打ったボールが跳ね返ってくること自体に意味があります。そのため、跳ね返り方には、特にこだわる必要はありません。

ただし、壁打ち相手を選ぶときは、必ず協力的な人を選ぶようにしましょう。茶化してきたり、笑いを取ろうとするような真剣味のない相手だと、話が深まることはないため、時間の無駄です。また、批判的な反応ばかり繰り返したり、偏った情報を流して操作してくる相手だと、批判を論破するために無駄な労力を使わされたり、誤った方向へ誘導されるため、壁打ち相手としては有害です。

一方、適切なビジネスの壁打ち相手がいれば、壁打ちしながら自然とアイデアも広がりやすく、「そういえば、競合他社がこんなことをしてましたよ」「その件なら、こんなデータも出ていましたが」など、何かしらの反応が返ってきて、多くのアイデアが生まれ、そのアイデアの中から、最良のものを選択することが可能になります。

実際、自分の仕事やビジネスについて複数の人で話し合うのは有益ですし、「三人寄れば文殊の知恵」と言うことわざもあります。ただし、3人で話し合うと、意見をまとめるのに時間がかかるため、スピードが重視される現代社会では、出遅れてしまいます。一方、壁打ちであれば、自分で最良の考えを選ぶことができるため、スピーディな意思決定できるというメリットもあります。

最近では、壁打ち相手を「ディスカッションパートナー」と称し、ディスカッションパートナーを仕事としている方もいます。例えば、ディスカッションパートナーの黒田悠介さんは、経営者の壁打ち相手を直接務めるだけでなく、「議論メシ(議論飯)」というサイトを運営し、コミュニティの中でも、壁打ちやディスカッションできる場を提供しています。「ディスカッションパートナー」や「議論メシ(議論飯)」は、まだ一般的ではないものの、今後、壁打ち相手として、そのような仕事が増えてくるかもしれません。

壁打ち相手との会話の意味

壁打ち相手との会話が、ビジネスで役に立つ意味は、アメリカの事業家「ティム・フェリス」による「学習を早める3条件」からもうかがい知ることができます。ティム・フェリスは、「学習を早める3条件」として、次の3つを想定しています。

  1. フィードバックループ
  2. 計画的訓練
  3. 教える側に立つ

この3条件のうち、「1.フィードバックループ」と「3.教える側に立つ」の2条件を、壁打ちを行うことで実行することができます。

「1.フィードバックループ」とは、フィードバックを得るシステムを持っていれば、学習の進展具合を評価できるため、学習を早めることが可能になるという意味です。学習を素早く行うためには、自分の学習は正しいか、適切に進んでいるか、知る必要があります。そのため、フィードバックをループ(繰り返す)させることが大切です。ビジネスでの壁打ちも、同じように壁打ち相手から自分の意見へのフィードバック得られるため、効率的にアイデアを深めることできます。

「3.教える側に立つ」とは、学習を教える立場であれば、主体的で積極的な学習ができるため、学習を早めることが可能になるという意味です。学習を素早く行うためには、一旦、学習した内容を、きちんと身につけなければなりません。しかし、受身的に学習していると、学習の定着率は、せいぜい5%~30%程度です。一方、人に教えるために学習すると、主体的で積極的に問題に取り組むことができるようになるため、学習の定着率は90%になります。

人に教えるときには、普通の人の3倍知っていなければいけないというのは、昔から言われており、このことを「教える側3倍の法則」と言います。実際、仕事でプレゼンの準備した経験のある方は、きちんと相手に伝えられるよう細かい点について調べたり、相手から質問されそうな内容への返答を考えたりして、理解が深まっていく経験をしたことがあると思います。人に教えることについて、天才物理学者アインシュタインは、次のような言葉も残しています。

  • 6歳児に説明できないなら、理解したとはいえない(アインシュタイン)

壁打ちも同じように、自分の考えを壁打ち相手に話して説明しながら、噛み砕いたりわかりやすく話そうとする中で、同時に、自分の考えの理解を深めていくこともできるわけです。

壁打ち相手をビジネスで有効に活用している事例

壁打ち相手を、ビジネスで有効に活用している経営者は多いですが、プライベートでされることが多いため、ビジネスにおける壁打ちの例や話は、あまりに表には出てきません。そんな中でも、壁打ちを使いこなしてビジネスで成功して人としてよく知られているのが、急激な躍進で日本のトップ企業へと登り詰めた、ソフトバンクグループ社長の孫正義さんです。

孫正義さんの口癖として「10秒以上、考えるな!」という口癖があります。この意味は、「10秒考えても分からないことは、それ以上一人で考えても答えはでない」という意味です。孫正義さんは、10秒考えても答えが出ないことは熟考しても無駄なので、さっさと人と議論をしたり、意見を聞いたりするようにしていました。実際、孫正義さんは、細かい事業内容だけでなく、自分の事業の大きな展望やビジョンなど含め、普段から身近な人に話して理解を深めています。例えば、ソフトバンクグループの後継者候補と目されていたアローラさんがいた2014年-2016年の時期、孫正義さんは、毎日のようにアローラさんと夕食を共にして自分の事業について語り、毎朝電話していました。

孫正義さんは、一人で考えず、他の人の知恵も借りれば、より短時間でより良い答えを導き出せることを知っていました。そのため、孫正義さんが、部屋にこもって一人で何かを考えている時間というのは、めったにありません。それどころか常に議論する相手を求めているくらいで、社長室のメンバーや経営戦略の担当者は、よく、孫正義さんのディスカッションパートナーを努めされられます。そして、壁打ちしながら話したことをホワイトボードに書き出していき、それだけで1つの事業プランやキャンペーンの企画がまとまることもあるほどです。

壁打ちの場合、壁打ち相手と会話するだけでなく、孫正義さんのようにホワイトボードを活用してアウトプットする壁打ち方法もあります。ホワイトボードによる壁打ちを得意としているのが、メンタリストDAIGOの弟である「松丸亮吾」さんです。松丸亮吾さんは、東京大学の謎解き制作集団「AnotherVision」の元会長で、ベストセラーとなった「東大ナゾトレ」の出版にも携わった人物ですが、NHKの情報番組「あさイチ」の2019年8月2日の放送において、数々の問題を作成してきた秘訣を公開していました。その中で紹介されたのが、マンションの壁の一面を改造して作られた、巨大なホワイトボードです。松丸亮吾さんは、部屋をウロウロ歩き回りながら考え、何か問題が思いついたら、すぐにホワイトボードに書き留めます。そして、ホワイトボードにアウトプットしたアイデアを、さらに膨らませていき、数々の謎解き問題を作成してきました。

ビジネスの壁打ち相手は、その分野を専門にしている相手である必要はないので、探そうと思えば簡単に探せます。真剣に話を聞いてくれる人であれば、友人や職場の上司、大学の先輩、奥さん、元カノなど、誰でも構いません。また、壁打ち目的は自分の意見を深化させることなので、壁打ち相手の話は、聞いていても、聞いてくなくても構いません。もし、真面目に話すのが照れくさければ、ランチの席や、飲みに行ったときに、壁打ちをするのもいいでしょう。

さらに、松丸亮吾さんのように、ホワイトボードやアイデアノートを使ってアウトプットするような、一人での壁打ちなら、いつでもどこでもすることも可能です。そのため、どうしても答えが出ない問題に突き当たったら、誰でもいいので話をしたり、ノートに書き出したりして、壁打ちをしてみるのもいいかもしれません。

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