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ビジネスの交渉術のコツ
ビジネスの交渉の基本は、いかに事前準備を行うかにあります。ビジネス交渉の事前準備の大切さとコツを教えてくれれるものが「鯉とりまあしゃん」の話です。
「鯉とりまあしゃん」とは、福岡県久留米市に実在し、74歳まで漁を続け、1999年(平成11年)に88歳でなくなったで伝説の鯉捕り名人、上村政雄さんのことです。「まあしゃん」は、火野葦平さんの「百年の鯉」という小説のモデルになったり、「鯉抱き」という歌にもなるほどの、地元の有名人でした。その、まあしゃんの鯉漁は「鯉抱き漁」と呼ばれる特殊な漁で、次のように、事前準備を周到に準備を行い、鯉捕りに臨んでいました。
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また、まあちゃんは、この他の決め事として、過酷は漁を乗り切るために、水に入る前の3日間は女人との交わりを絶ち、熟睡することも、ルールとしていました。以上のようなしっかりとした事前準備により、まあしゃんは、多いときには1日で100匹以上の鯉を捕ったほどで、あまりに捕りすぎるため、漁業組合から漁を禁止されたこともありました。
孫正義さんは、「鯉とりまあしゃん」の鯉を自然と寄せる技を例に出し、ビジネスの交渉術について、次のように説いています。
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交渉とは、きちんと準備しておけば、後は、腕の中にそっと入ってきたものを抱き上げるだけで、特別なテクニックはいりません。一般的に、「交渉術」と言われると、本番のプレゼンの場での説得力やアピール力が大事だと思われがちですが、本当の交渉というのは、すでに本番が始まったときには、勝敗は決まっているわけです。
歴史的に見ても、本番前にすでに勝負はついているような状況は多く、入念な下準備の行われていた歴史的出来事としては、次のようなものがあります。
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歴史的な戦いの勝敗を見ていると、勝つものは、勝つべくして勝っている場合が、多々見受けられます。日本三大奇襲の一つとして、桶狭間の戦いと共に有名な、「厳島の戦い」でも、60歳の高齢であり兵力も少なかった毛利元就が、陶晴賢の大軍を厳島に誘導して殲滅しました。
ビジネスの交渉で有利に進めようとしても、確かに、資金面や技術面での限界はあるかもしれません。しかし、東郷平八郎の「訓練に制限はない」という言葉を借りるなら、事前準備に制限はありません。そのため、交渉を有利に進めたいならば、考えうる限りの準備を進めておきましょう。
ビジネスの交渉上手な人のスキルとコツ
ビジネスの交渉上手な人の交渉術が、戦争の事前準備と異なるのは、ビジネスの場合は「協力を得るのが目的」だという点です。そのため、ビジネスで交渉上手な人のスキルを見ていると、いかに鮮やかに味方に引き入れるかを、うかがい知ることができます。
交渉の天才といえば、一浪人の身分から幕末の志士として活躍した「坂本龍馬」でしょう。その坂本龍馬は、人からの協力得るときに一番大切なものについて、次のように語っています。
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つまり「評判」さえあれば、「鯉とりまあしゃん」のように、自然と人や物が集まってくるわけです。
ソフトバンクの孫正義さんも、自分の評判を高めて交渉術に利用した、交渉スキルの達人として有名な人物です。事例として例えば、孫正義さんは、1981年9月にソフトバンクを創業しましたが、創業して早々に、次のような大変な状況に陥ったことがありました。
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当時のソフトバンクは、創業したばかりで無名の会社でしたが、孫正義さんは、過去の経歴や評判を伝え、アメリカ留学時に翻訳機を発明してシャープに売り込んだことや、上新電機の社長と取引していることを支店長に伝え、融資を頼みました。そして結果、融資の査定ではマイナス15点であったにも関わらず、融資審査表で支店長が「将来の見込み」で15点をつけてくれ、なんとか査定がプラスマイナス0となり、1億5,000万の融資を得ることができました。その後、ソフトバンクは、1982年には年商20億円で社員30名の会社に成長し、1983年には年商45億円で125人の社員を抱えるまでに拡大しました。
また、その他の事例としては、交渉上手な人である孫正義さんの評判が有利に働いたものとしては、ソフトバンクによるiPhoneの独占販売が挙げられます。iPhoneは、2007年1月9日に初代iPhoneが発表されて以降、日本での販売に大きな注目が集まっていました。Apple社は、現在ではマルチキャリア対応(複数の通信事業者対応)になっていますが、当初は、1国1キャリア(1国1事業者)による販売独占契約で拡大を進めていました。そのため、iPhoneの2代目となる「iPhone 3G」が日本で販売されるとき、どのキャリアで販売されるかが、話題となっていたわけです。
iPhoneの3G回線は「W-CDMA」方式を採用しているため、マイナー規格の「CDMA2000」を3Gに採用しているauでは販売されないことは、ほぼ確実でした。そのため、日本のiPhoneのキャリア候補は「W-CDMA」方式の通信を採用している「NTTドコモ」と「ソフトバンク」の2つに絞られていたわけです。当時、NTTドコモとソフトバンクの注目度は高く、両社のトップがAppleの本社であるクパチーノへ出向くことがメディアで取り上げられ、「クパチーノ詣で」という言葉も生まれたほどです。しかし、Appleは、各国のトップシェア事業者と契約することが多く、さらにNTTドコモは2005年頃より、Appleと「iPod ケータイ」を共同開発していたこともあったため、当初の下馬評では、NTTドコモが有利と見られていました。また、2008年6月2日のASCII.jpの記事でも、ドコモでのiPhone販売が確実視されていました。
しかし、2008年6月10日(現地時間で6月9日)にスティーブ・ジョブズにより発表された、2代目iPhoneの日本のキャリアは、まさかのソフトバンクでした。そして、2008年7月11日(現地時間で7月10日)、日本を含む世界22カ国で「iPhone 3G」が同時販売され、ソフトバンクは一躍、携帯通信業界の寵児となったわけです。
実は、このソフトバンクのiPhoneの独占販売も、早い段階で孫正義さんが交渉しており、Apple社の当時の社長であるスティーブ・ジョブズと、次のような関係を持っていたことが分かっています。
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つまり、孫正義さんは、2005年にすでに、ジョブスに会いに行き、iPhoneのアイデアを聞いた直後に、独占販売権の約束をしていたわけです。孫正義さんは、その場ですぐに、独占販売権の契約の署名をもらおうとしましたが、そのときは、まだ、ソフトバンクは携帯のキャリアすら持っていなかったため、ジョブスに断られました。しかしその後、2006年に1兆7,500億円でボーダフォンを買収して、ようやく携帯電話事業へと参入し、2008年のiPhone販売へとこぎつけたわけです。
その他のキャリアからiPhoneが販売されたのは、auが2011年10月14日販売の「iPhone 4S」から、NTTドコモが2013年9月20日販売の「iPhone 5s」と「iPhone 5c」からです。その間にソフトバンクは顧客を増やし続け、2014年にはついに、NTTドコモの売上・営業利益・最終利益の全てで上回り、通信業界のトップとなりました。
なお、孫正義さんがAppleから信用を勝ち得た要因の一つに、ソフトバンクが、「携帯の純増数」で日本の携帯会社ナンバーワンであったからではないか、とも言われています。当時、携帯電話の販売台数では、NTTドコモが一番でした。しかしソフトバンクも、自分がナンバーワンであるセグメントを見つけ、アピールすることで、ナンバーワンとして評判を高め、交渉を有利に勧めたわけです。
交渉のためにナンバーワンであると名乗りを上げることは大切です、特定の分野でナンバーワンになっていると、評判を簡単に高めることができます。ナンバーワンであることの大切さは、アメリカの鉄鋼王「アンドリュー・カーネギー」も述べており、次のような名言を残しています。
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あなたも、業界ナンバーワンの会社にヘッドハンティングの交渉を受けたら、おそらく、転職を検討してしまうでしょう。交渉を有利に勧めるたには、いかに自分の価値を高くみせて評判を高めるかが、大切です。
現在の孫正義さんの評判の高さは、安倍首相やトランプ大統領も引き寄せてしまうほどです。そのため、安倍首相とはホットラインで直接結ばれており、トランプ大統領にも「マサ」と愛称で呼ばれています。孫正義さんの現在の状況を見ていると、評判の高さが、いかに大物たちを引き寄せるかについて、垣間見ることができます。